涙の数だけ素直になれる?
そんなの嘘、知ってるの、ずっと見ていたから。

だってほら、たくさん泣いた彼女は泣いた分だけ、秘密の隠し方が上手くなった。



摂氏三度



次の日も、そのまた次の日も、飽きもせずに海斗はやって来た。
海斗が流介に良い感情を抱いていない以上、流依がどうにかなることは出来ない気がした。
許可も、すべてもう取り終わったからあの日、流介は流依のもとを訪れたのだろうが、
何も知らない一般人が一人、其処に入り込むことで、
スムーズに動いていたはずの歯車が噛み合わなくなっている。
「本当に、ごめんなさい」
だから、謝った。
「電話したのは、私なのに」
「いや、良い」
まるで、本当に気にしていないようだった。
じっと次の反応を待ちながら流依は思う。
両親を亡くしてからずっと流依を育ててくれた流介だったけれど、
どうしても親子、という関係にはなれなかった気がする。
しかし、その視線は、まるで。
「寧ろ、君にもそういう感情があったことに僕は喜びたいと思う。
たとえそれが、悲劇の前振りだったのだとしても、だ」
「流ちゃん」
自分で思うよりもずっと、冷たい声が出た。
「これは美園流依の感情、だよ」
愛し愛され、なんて人間のものだ。だからこそ、流介はこうして流依を見る。
分かっているはずなのに、流介はどうしてこうも繰り返すのだろう。
「だって私はバケモノだから」
続けた言葉に流介は一度だけしっかりと瞬いて、それから、そうか、とだけ呟いた。
「君がそう言うのなら、そうなのかもしれないね」

含むところのありそうなその言葉に何か言おうとした瞬間、からから、と扉が開く。
「…あ、邪魔、しちゃった?」
前とは逆だと思った。
「いや、今終わったところだよ」
流介はそう言うと立ち上がって、入れ違いで海斗が病室に入ってくる。
「…なんか、あった?」
「…なんで?」
声は、掠れなかったと思う。
「なんか、ちょっと苦しそうな表情、してたから」
そういうところが好きなのだろうと思った。
胸の奥がじわりと冷える心地がしていた。

大丈夫。心の中でだけ呟く。
まだもう少し、演技をしていられる。
きっと、まだ元に戻れる。

これが本物だとしたら、少し、骨が折れるけれど。





  





20130829